なんとかなるものね。
学校から自分の家までは、そんなに遠くないし、小さな商店街は、掃除もかなり行き届いていて、踏んでもけがをするようなものは落ちていない。
おまけに、今は初夏。そしてよく晴れていてる。学校から裸足で帰っても、そんなに実害はない。寒い季節だったり、雨が降っていたりだとかなり困るだろうと思う。
学校帰り、私は裸足で通りを歩く。靴なくしちゃったから。靴下はカバンの中。さすがに靴下のまま歩いたら汚しちゃうしね。
どうしようかな? 明日からしばらく裸足で学校行くかな。探すのもしゃくだし。雨降ったらまた考えるかな。
いいや、とりあえず、明日の朝「靴がなくなりました」だけは、みんなの前で言ってみよう。
翌朝、私は言った。
「昨日帰ろうとしたら靴がなくなっていたんです。誰か見かけた人がいたら、教えてください」
「なによ、私たちが隠したとでも言うの?」
「あ、だから、見かけた人は教えてください。隠した人じゃなくて」
「あんたがなくしたんでしょ」
「だから、なくなったんです。見かけたら教えてね」
思った通り、ちょっと険悪な雰囲気になる。でも、うまく切り抜けたかな。
帰ろうとしたら、ななちゃんが、靴を持ってきてくれた。
「あの……ゴミ箱の中にあったの」
「ありがとう……でも、大丈夫? 私の靴持ってきたりして」
「大丈夫じゃない……よね、多分」
靴はゴミ箱に入っていただけで、破れていたりとかはしていない。良かった。
ななちゃんは、いじめられていた。クラス中から無視されている様子だった。私としては、そんなことに関わるつもりはなく、いつものように、ななちゃんとお話していた。
どうも、それが気に入らないという人がいるらしく、私も、靴を隠されたりするようになった。
「夕祈ちゃんの靴を届けたりしたら、またいじめられるかなって思った。でも、私に話しかけてくれた夕祈ちゃんのことを、私が無視しちゃいけないと思って」
「……ありがと」
「それに……あのことがあったから」
「え?」
「夕祈ちゃん、お昼休みにトイレに行かせてもらえなかったことがあったじゃない」
「ああ、取り囲まれてね」
「うん。あのとき、『おしっこ出ちゃう、トイレ行ってくる』って大声で叫ぶんだもの」
「だって、出るものは出る」
「いじめっ子たち、あっけにとられていた。でも恥ずかしくなかった? 男の子たちもいたのに」
「そうそう、しばらく、『おもらしちゃん』って呼ばれてたものね。恥ずかしかったかな。でも、わかってくれる人はわかってくれる。今は見ているだけだったとしても」
「うん」
「わかってくれる人にだけ、わかってもらえたらそれでいいと思わない?」
「うん」
いじめられるのはつらいけど、もしかしたら、秘密にしちゃうから、なおさらつらいのかもしれな。いやだよとか、出してとか、叫んじゃえばいい。なんだか、そう思う。
私? 強くなんかないし。だから、殴られそうになったら逃げるの。「助けて」とか叫んで。
もしかしたら、そうやって、みんなに知らせてしまえば良いのかもしれないって、そう思うから。
「そうかも……って、私も思えるようになってきたの」
「じゃ、何かあったら叫んじゃおう」
「うん」
私たちはポプラの木により掛かって話した。商店街の外れに一本だけのポプラ。こんなところにポプラ、気付かなかったね、なんてことも。