むかしむかし、隣り合わせにおじいさんが住んでいました。ふたりのおじいさんは、ふたりとも、ほおにこぶがあったのです。
右の家に住んでいるのは、「しょうじき」という名前のおじいさんです。珍しい名前だと思いますが、これがおじいさんの名前だからしかたありません。
「しょうじき」の左のほっぺたには、大きなこぶがありました。
左の家のおじいさんは、「うそつき」という名前でした。こちらも珍しい名前ですが、やっぱり、これがおじいさんの名前なのでしかたありません。
そして、「うそつき」の右のほっぺには、やはり大きなこぶがあったのです。
お互いに、よく似たおじいさんですが、「しょうじき」はちょっと気むずかしいところがあって、なにより、こぶのことをとても気にしていました。こぶのことなど話そうものなら、たいへんに機嫌が悪くなってしまうのでした。
ですから、みんな、「しょうじき」のまえでは、黙りこくっていました。
一方の「うそつき」は、こぶのことなど全く気にしていないようです。それどころか、他の誰もが「こぶのおじいさん」と、それは親しく呼びかけてくれるのがとてもうれしいようでした。
今日も、「うそつき」の家には子どもたちが遊びに来て、にぎやかなことです。今日は、子どもたちと一緒に、かごなど編んでいるようです。一方で、朝から仕事に出かけていた「しょうじき」は、お昼頃に帰ってきて、子どもたちのこと、をちょっとにらむと家に入ってゆきました。
ある日のことです。
「しょうじき」は夜遅くまで仕事をしていました。そして、帰ろうかというとき、なんということでしょう、酒盛りをしている鬼に出会ってしまったのです。
このあとのことは、みなさんもよくご存じでしょう。鬼に言われて踊りを踊り、それがまた、なかなかじょうずだったといいます。
そして、「しょうじき」の踊りを気に入ってしまった鬼たちに、「また来るように」と約束させられてしまいました。
約束を破ると困るというので、何か大切なものを預からせてもらうと、そう言った鬼たちに、「こぶ」のことを話してしまったものですから、証文代わりにこぶを取られてしまったのでした。
喜んだのは、「しょうじき」と、そして一緒に住んでいるおばあさんでした。
そして、我慢がならないのは、「うそつき」と一緒に暮らしているおばあさん。
となりのおじいさんが、鬼をばかして、こぶをなくしたというので、同じようにしてこぶを取ってもらえと、「うそつき」をせかせるのでした。
当の「うそつき」は、もともとこぶのことなど気にしていませんでしたが、それでも、おばあさんが、あまりせかすので、こちらも、鬼の出そうなところに出かけて行ったのでした。
そのあとのこともみなさん、よくご存じだと思います。どうも、「うそつき」は踊りが下手だったようで、こぶを取ってもらえなかったばかりか、「しょうじき」が取られたこぶまで持って帰ってきてしまったのです。
「しょうじき」と一緒に暮らしている、おばあさんは、「となりのじっさまは、鬼をばかして、こぶを取ってもらったのに、おらがのじっさまは、こぶを増やしてお帰りだ」と、ひどく嘆いたといいます。
さて、「うそつき」はといえば、こぶが増えたことも、やっぱり気にしてませんでした。いえ、これまで、右側のほっぺただけが妙に重かったのですが、どちらも同じ重さになって、どうやら、ふたつのこぶが気に入ってしまったようです。
それからも長い間、「こぶのおじいさん」として、このあたりでは誰もが知っているおじいさんだったということです。