「ちょっとあんた、いいかげんなこと言ってうちの子をあおりたてないでくれる」
「……」
「何とか言ったらどうなのさ」
「……」
「まあ、いいわ。とにかく『見料』とやらを返してもらいましょうか。あんたは、いいかげんな思いつきでべらべらしゃべってればいいんだどうけど、それを真に受けてお金払おうって気になるなんてこの子もこの子だよ、本当に」
ははん、占いやってるな。占い師ってのは、確かにいい加減なことしか言わない。なまじ不幸を言い当てるようなことをしたら、いやがって誰も来なくなるものな。第一、あいつらに人の将来がわかるわけなんぞないんだ。結局耳ざわりのいい言葉を並べて、お客の機嫌をとっているだけ。
もっとも、おれに言わせれば、多少の利用価値はある。さんざん愚痴を聞かせて、なにがしかの金を払う。そのあたりの釣り合いがとれれば、ちょっと寄ってみようという気にはなるな。
そう考えると、おれは引き返した。
「見てくれるかい?」
「どうぞ、いらっしゃいませ。なにを見てさしあげましょうか」
「あんた、このあたりの人間かい?」
「いいえ、旅のものですが。あなたも、船に乗っていらっしゃるようですね」
「おれが船乗りだとよくわかったね。ま、このあたりでこの格好を見れば、誰だってわかるか」
「まあ、そういうことですわ」
「あんた、歳はいくつだ」
「お答えしないことにしております」
「それはないだろう、教えてくれよ」
「じゃ、十七ですわ」
「本当か?」
「さあ」
「仕方がないな、じゃ、見てもらおうか」
「はい、どうぞ」
「あんたが、今晩、おれとつきあってくれるかどうか見てくれないか」
「はあ?」
「だからな、今おれの目の前で占いやってるかわいい女の子が、一晩おれとつきあう運命にあるのかどうか見てくれって言ってるんだよ」
「直接ご本人にお尋ねになったらどうですか?」
「これは、講見えても結構シャイでね、直接声を掛けるなんてことはできないってことだ」
「では、占ってみましょうか」
女は黙ってカードを混ぜ始めた。おれは手持ちぶさたで、あちこち見回していた。「占います・キラのテント」なんていう看板がある。
「キラってのか? あんたの名前」
「……」
「何とか言えよ」
「……」
女はしばらく黙っていた。
「結果が出たようです」
「ほう、どんなだって」
「望みはないですね、まったくダメです」
「そうか、でもな、おれは占いなんて信じないからな。じゃ、直接聞いてやろう。今晩おれとつきあわないか?」
「じゃ、直接おこたえしますわ。お断りよ」
「そうか、あんたの占い通りだったって訳か、じゃ、またな」
「あら、見料は?」
「これで見料とるつもりかい」
「ちゃんと占ってくれって言ったのは、あなたのほうよ」
「ああ、わかったよ、ほら。じゃあな」
夜になって出かけた酒場で、おれはキラを見つけた。ステージで吟遊詩人を気取っている。なにやら短い歌を歌うと、フルートを取り出す。フルートだけはほめておいてやろう。確かにおれが今まで聴いた中では逸品の腕前だ。ま、もっとも、おれの「音楽的センス」など当てにはならないが。
−−あたしの髪は短くて、
振られて捨てる髪もない
しかたないのでお気に入り、
ブラウス丸めてくずかごに−−
何曲かこなすと、キラはカウンターにおりてきた。これを逃す手はない。
「や、昼間の占い師さん。こんなところでバイトかい?」
「あら、昼間の柄の悪い船乗りさん。これは奇遇ね」
「まあ、そうつっけんどんにするなって。こうして話すぶんには、見料なんていらない訳だし、ゆっくり話そうじゃないか」
「なるほど、見料無しね。じゃ、わたしもあなたのことお客扱いする必要はないってことね」
「なかなか骨のある奴だな」
「ありがと、ほめてくれて」
「ところで、あんた、本当に自分の占いが当たるなんて信じてるのかい」
「あら、当たるときには当たるわよ」
「ふん、あてにならないね」
「水難の相」
「え?」
「あなた水難の相が出てるわ」
「ほう、そう言って船乗りを脅かす訳か」
「あら、脅かしてなんかいないわよ、ほら」
言うが早いか、キラは持っていたグラスの水をおれの頭の上にぶちまけた。そうして、おれが目を白黒させている間に、キラは酒場から出ていった。
翌日は暴風雨だった。実によく荒れて、おかげで出航がのびてしまった。
おれが物好きにも市場に出かけてみると、さらに物好きな奴がいて、この風の中にテントを構えている。キラのテントだ。
「ほい、見料だ。これで文句はないだろう。ちょっと見てもらおうか」
「あら、いらっしゃい。今日はなにを見ましょうか?」
キラは、案外に好意的な表情でおれを迎えてくれた。まあ、客相手だから、それも当然か。
「その前に教えてくれないか、昨日の坊や、母親が血相変えてなぐり込んでくるなんて、あんた、どんな占いをしたんだ?」
「それは、お答えできませんわ。お客様のプライバシーは守らなければなりませんから」
「そうかい、でも、あんたも調子のいいことばかり言うから、どなりこまれたりするわけだろう。商売になれば良いんだから、あんまり人をおだてたりするのはやめたらどうだい」
「そうもいかないわよ、私もプロのはしくれですからね、嘘はつけないわ」
「嘘はつけないときたか。そもそも占いなんてのが嘘だろう?」
「いいえ、私は占いで嘘は言わないわ。ま、もっとも、親方あたりに言わせれば、私のは占いになってないって言うけど」
「親方?」
「そう、私の先生、占いのね」
「おれは信用しないぞ、あんたの占いなんて」
「あら、じゃ、どうして占ってくれなんて言うの?」
「うるさい」
「あなた、ちょっとおもしろい人ね。いいわ、ちょっとだけ話してあげる。私の占いはね、ほんとうは、当たり前のことしか言わないことにしてるの」
「当たり前のこと?」
「あなたがいつまでも船に乗りたいっていう気持ちを持っていて、少しずつ必要な勉強をしていれば、必ず船乗りになって、海の向こうに行けるわって」
「昨日の坊やにそういったのか?」
「あら、それはノーコメントよ。本当に当たり前のことでしょう? 誰でも知っていることを、わたしはちょっとだけ思い出させてあげるの」
「はん、船乗りなんてそんなにいいものじゃないぜ」
「あなたもそう思っていた?」
「ああ、そう思ってるよ」
「ううん、『思っていたの?』って尋ねたんだけど」
「ふん……忘れたよ」
「そうよね、夢を見続けるのはとっても大変なことだわ……ところで、何を見てさしあげましょうか?」
「ああ、いいよ、また来る」
「そう、じゃ、見料はいらないわ」
「とっとけよ、遠慮せずに」
「私、これでもプロのつもりなんだけど。占ってもいないのに見料はもらえないわ」
「そうか、気に入ったよ。じゃな」
おれがキラのテントから出てゆこうとしたときだった。悪い知らせが届いた。子どもが波にさらわれた。
悪い予感がする。駆け出してきたのは、昨日の夕方わめき散らしていたあの母親だ。
「どうしてくれるのよ、あんたのせいよ、私の子どもを返してよ」
キラにつかみかかっている。
「あの子は、この嵐の中出かけていったのよ、あんたの占いなんか信じて。さあ、あの子を返してよ」
キラは何も答えなかった。
「何とか言ったらどうなのよ!」
キラはたまらなくなったのか、逃げ出そうとする。あの母親と、街の幾人かがキラを押さえつけようとする。おれは、それより先に、キラをかばって逃げ出していた。
おれがこともあろうに占い師を助けるなんて前代未聞というものだな。そもそも、おれは、占い師というのが大嫌いだ。やつらは、調子のいいことばかり言って人をおだてて金を取る。やつらにかかれば、どんな夢でもかなわないことはない。この世は天国だ。
だけど、おれは知っている。この世は天国でも何でもない。夢なんて見るだけ損だ。占い何ぞを信じて、夢を追いかけてみたところで、ろくなことなどありはしない。
そのおれが、よりによってキラを助けるなんて……おれもキラの色香に迷ったか。
「ありがと」
「こわいのか?」
「うん……こわい」
「あんまり調子のいいことばかり言うからだ。これからは少し自重するんだな」
「うん……でも、いつものことだから……こわいけど、心配はしてないわ」
「いつものことだって?」
「うん、私って、どこでもひと騒動起こしちゃうの。未熟なのかしらね。でも、夢を見る人だって、それをじゃまする人だって、みんな未熟よね」
「何を言ってるんだ?」
「夢を見るのも楽じゃないってこと」
「わからないな」
「そう……じゃ、また、おはなしさせてね。そろそろ行かなくちゃ」
「行くって、どこに?」
「みんな探しているもの、私のこと」
「出て行くってのか? それじゃ自殺行為だぜ」
「ううん、まだ、命までは取られないでしょう。それに、あのお母さんの気持ちも分かるの。これ以上隠れていたら、あのお母さんのほうがまいっちゃうわ」
「だからって、キラ……」
「それに−−本当にこわいんだけど−−このままここに隠れていたんじゃ、夢を見ましょうなんて言えやしないわ。ありがとう、かくまってくれて」
それだけ言うと、キラは出ていった。案の定街のやつらは、キラに襲いかかった。十七の女の子に。もっとも、本当に十七かどうかはわからないが、それにしたって女の子であることには変わりはない。
おれは、キラを助けなかった。街のやつらが恐ろしいと言うわけではないが、なんとなく、キラを助けてはいけないような気がした。
キラが傷だらけになったところで、街のやつらはキラをおいて帰っていった。ひとしきりキラに殴りかかったところで、そろそろ、坊やの行方でも探す気になったのだろう。誰もいなくなった頃を見計らって、おれはキラを自分の宿にかかえていった。宿の主人がいやな顔をしていたが、なに、気にすることはない。
「物好きなやつだな、何も殴られに出てゆくことはないだろうに」
「だから言ったでしょう。あそこで殴られでもしなきゃ騒ぎは収まらないわ。そう……『あの子』を探そうって気になるまでに、どうしても、私は殴られなくちゃならないみたいだし」
「あんた、いつものことだって言ったな。こんな風に殴られることがよくあるのかい」
「そうね、結構あるわよ。今夜はまだましかもね、ちゃんと話すだけの気力が残っているから」
「あんた、そんなにまでしてなんで占いなんか続けるんだ。おれは、音楽は分からないが、あんたならフルートだけでも食ってゆけないことはないだろう」
「どっちが本業かしらね……あ、でも、また吟遊詩人のほうは職にあふれちゃった。これだけ騒ぎ起こしたら、使ってくれないよね」
「振られたんで、髪切る替わりに服を捨てたってのは、あんたのことかい?」
「忘れたわ。占い師のまわりには、いくつもの人生が集まってくるから。どれが自分のものなのか思い出せない」
そう言うと、キラは静かに話し始めた。
それは、昔のことでした。娘は一人の男に恋したのでした。ところがその男ときたらあらくれでした。ですから街の人たちも、その男のことがあまり好きではなかったのです。
娘は、ある年の雪解けの祭りの夜に男を見かけました。街の人たちは、だれも、その男が娘にふさわしいとは思っていませんでしたから、娘はこの時まで、その男に会ったことはなかったのでした。
娘は、何も知らないまま……というのは、街の人たちの考えを何も知らないまま男を好きになりました。
一方、その男のほうは娘には気が付かないようでした。
こういった話にはよくあるように、娘の気持ちは、誰にも知られることなく、幾日かが過ぎてゆきました。
やがて、娘は、男が自分の「おじさん」のところにあししげく通っていることに気が付きました。男は、「おじさん」を訪ねては、長い間話をしていました。娘は、声をかけることもできないで、ただただ、耳をそばだてるだけでした。
ある日、男は船に乗って街を出てゆきました。男の母親がそれを知ると、人を雇ってむりやり男を連れ戻しました。
娘の友達の話では、男は、船乗りになろうとしたそうです。男の父親が船乗りで、海で亡くなっていたものですから、母親は、男が船乗りになるのを許しませんでした。街の人たちも、母親に同情していましたから、男に船乗りをあきらめろと言い、それでも男が船乗りになるのをあきらめないでいると、男のことを嫌うようになったのです。
そんななかで、どうやら、「おじさん」は男に船乗りになることを薦めていたようです。男が強引に船に乗り込み、そして、むりやり連れ戻されると、男をそそのかしたというので、街の人たちは、「おじさん」もまた、嫌いになったのでした。
男は連れ戻された後も、相変わらず「おじさん」を訪ねていました。男は「おじさん」にしきりに謝っていたようです。もう無茶はやらないと、そう言っていたようです。
初めて夢を見ると、夢の大きさに押しつぶされそうになる。だからといって、誰も親父を亡くした同じ船乗りの仕事に、子どもをつかせようなんて思わないものだ。誰もが反対する。初めから失敗することが分かり切った夢。きっとおまえも、海で死ぬことになる。
だからいっそう、心の中で夢は大きくなってしまう。そして、ある日、自分の心が自分の夢を支えきれなくなる。そうすると、人は、目をつぶって夢の中に飛び込むか、夢を見ていたことを忘れるか。
夢なんてものはかなわないものと決まっている。だから、誰もが夢を見たがっているのに、夢を見ないふりをする。夢なんてものはね、かなわなくても気にすることはない、でも、少しずつかなえようとしなければね。いいかい、少しずつだよ。
おやじさん、おれ、わかったよ。お袋が、あまり反対するものだから、おれは家を飛び出した。少しずつ夢をかなえるなんて、大変だな。でも、やっとお袋の気持ちも分かったよ。でも、もちろん、おれはあきらめない。少しずつ、少しずつ、お袋にわかってもらうよ。……それも、結局、「夢をかなえる」っていう大切なことだったんだ。
そう、夢に飛び込んで、連れ戻されて、それでも夢をあきらめない男は、本当に夢を見ることができる男だ。おまえさんのことだよ。
娘はそんな会話を聞いていました。わかったような、わからないような会話。
そう、私にだって夢はある。さしあたって、あなたに……あの男に自分の気持ちを伝えること。なんてちっちゃな夢なんでしょう。あの人が聞いたらわらわれそう。
結局、男はそれから数年の間、街で暮らしていました。娘は、こう言った話によくあるように、結局男に何一ついえなかったのです。
そして何年かたったある日、男は今度こそ母親に見送られて海に出てゆきました。娘は、自分の気持ちをこれで伝えられなくなってしまったのだと気が付きました。
そう、それは、本当にありふれた話。でも、娘は数年の間の心の高ぶりを決して忘れませんでした。夢を見るだけでも、自分の小さな夢でも、あんなに毎日が輝いていたのに、少しずつ夢をかなえる生活というのは、どんなにすばらしいでしょう。
娘は、「おじさん」のもとに通うようになりました。相変わらず、街の人たちは、おじさんのことを好きになってはくれませんでした。けれど、娘は「おじさん」のところで夢を見ることを覚えました。
キラはそこまで話すと黙り込んでしまった。おれは何となく、キラが祈っているのだとわかった。キラは何に向かって祈っているのだろうか?
「坊や」が助かったという知らせが届いた頃には、もう夜も更けていた。
宿の主人が、いやな顔をしながらおれに教えてくれた。キラは様子を見に出たがったけれど、さすがにおれは止めた。これ以上キラにけがをさせたくないからな。それでも、キラが心配そうにしているのでおれが様子を見に行くことにした。
「キラが……、キラがね、呼んでくれたんだ」
「キラって何なの?」
「女の子さ、港町の市場で占いをやってる」
「あんなインチキ占い師の話なんかするんじゃないわよ」
「だって、本当なんだよ。海に投げ出されて、最初は苦しくなって、苦しくてたまらなくなって、そのうち、なんだか眠くなって、とっても気持ちが良くなって……、そのときにキラが呼んでくれたのさ、『あなたは、まだ、眠っちゃいけない』って、そう言ってくれたんだよ」
「おおかた夢でも見たんだろう。いいかい、もう二度とあの占い師のことはしゃべちゃならないからね」
おれに聞こえたのはそれだけだった。キラの祈りが通じたのかな……なんて、さしものおれも考えてしまいそうになる。
「そう。とにかく良かったわ、助かって」
おれは、少しばかり不思議な気がした。本当にキラは「坊や」のことを心配していた。でも、それは、キラの自業自得というものだ。いいや、違う。キラは、「家族を振りきってでも、家族の目を盗んででも、船に乗ってしまえ」なんてことは決して言わないだろう。
おれには何がなんだかわからなかった。
そして……もっとわからなかったのは、こんな場面でキラに同情してしまいそうになる自分の気持ちだ。
キラは言った。「誰でも知っていることを、私はちょっと思い出させてあげるだけ」だと。「坊や」は知っていたんだろうか。いつか船乗りになる自分を。
「坊や」の夢は、自分一人でとっておけないくらい膨らんでしまったんだろうな。もちろん、それに火をつけたのは、キラだ。
キラは言った。自分の夢をじゃまされて、その時に、本当に夢を見続けることができるかどうかが決まると。「坊や」は、まだ夢を見続けてくれるのだろうか。
ひとしきり話し終えると、キラは眠り始めた。「キスくらいならしてもいいわよ」そう言ったキラの表情は妙になまめかしかった。
結局おれは、何もしなかった。腕枕にしたキラの身体の重さが、なんだかとてもなつかしかった。
翌朝おれが目を覚ますと、キラはもう出かけた後だった。おれが市場に訪ねてゆくと、キラはもう荷造りを始めていた。
「坊や」が、無傷で帰ってきたので、街のやつらも平静を取り戻した。しかし、まあ、これだけ大騒ぎになったのだから、これ以上街にいるわけにはいかないだろうな。
「あんた、この街から逃げだそうって訳かい? 」
「ごめん、これ以上いられないわ。でも、いいニュースもあるのよ」
「何?」
「あの子がね、訪ねてきてくれたの。もうあんまり無茶はしないって言いに来てくれたの」
「よかったね」
「うん、でも、やっぱり出てゆくわ。私、キラだもの」
「あんたの名前がどうした?」
「あ、知らないんだ、キラって言葉」
「だてに船に乗ってるわけじゃないからな、そのくらいは知ってるさ。北の国の船乗りたちが言ってたな」
北の国の冬が終わる頃その年の最初に吹く春一番を、やつらは、「キラ」と呼んだ。キラが吹くと渡り鳥が渡りの準備を始める。渡り鳥に旅することを思い出させる風、「キラ」ってのは、もともとそんな意味だった。
そして……思い出した。キラはペペル−−夏の風の神−−の使いで、そして、娘。それは、半年の間氷に閉ざされる国の船乗りたちが話す短い神話だった。
ペペル。なつかしい名前だな。やっぱりな。そうか、キラ、おれはたぶん、あんたの「親方」を知っているよ。
「よくご存じね。でもね、それだけじゃないの。その気があったらちょっと大きめの辞書でものぞいてみてくれる? 『キラ』って欄に『ペテン師』っていう意味もきっと載ってるから」
白状するのも少々気恥ずかしいが、おれはそれ以来「ちょっと大きめの辞書」ってのが妙に気になっていて、上陸する度に、「大きな本屋」の前をうろうろしたりしている。
Fin.