好きだったあなたに


寓話


 「だますのなら、最後までだまさなきゃね」
 罵声に包まれて、君はほほえむ。

 そのまま歩き続けて、
 呪いの言葉の中で息絶えた君の物語を、
 ぼくはきっと誰かに伝えるだろう。

 伝えられなかったとしても、
 きっと覚えておくだろう。


――キラへ――

  
  Love Letter −−キラへ−−

 海岸通りで出会った、占い師のキラへ
 夜の風の中で、ぼくは返事を書きましょう。

 あなたがくれた言葉
 初めはおずおずと、
 けれど、ぼくの目を見つめたままで。
 あなたの話す身の上話が、本当はぼくのことなのだと、
 あなたは、教えてくれましたね。

 あなたは、予言なんてしませんでした。
 それどころか、
 あなたがそこにいて、ぼくのことを知ってくれているという
 小さな事実の他には、
 何ひとつ言葉を残さなかったのです。

 ぼくは返事を書きましょう。
 あなたの、つぎあてばかりの服は、
 妙に似合っていましたよ。
 だから、ぼくも、慣れない手つきで、つぎあてを始めます。

 そして、
 季節が変わる頃には、つぎあての残る服で、
 きっと、あなたのふるさとに向かいます。
 あなたを見つけられなくても、
 あなたに出会えたという小さな事実に
 せめて、感謝するために。



風の記憶


 おまえは、風
 わたしの枝をふるわせ、
 わたしの葉をちらし、
 わたしをあらわにする、
 おまえは、風

 わたしは、おまえにこがれる
 そうして、
 わたしは、おまえをおそれる。

 いつか、
 おまえは、わたしのことを
 知ってしまうのかもしれない。

 (それでも、帰ってきておくれ)


  あなたは、木
  わたしに呼びかけ、
  わたしをくみふせ、
  わたしを抱きしめる、
  あなたは、木

  わたしは、あなたにこがれる
  そうして、
  わたしは、あなたをおそれる。

  明日、
  わたしは、あなたのもとに、
  もう、帰ってこないのかもしれない。

  (それでも、わたしを、つかまえて)


おやすみなさい


 山の端でしきりに動く 遠い光
 人々の帰り道?

 ひとつの光にはひとつの思いだとか、
 ましてや、自分がつい先ほどまでそこにいたのだとか
 本当に信じているのですか?

 帰ってしまえば 街は本当に小さくて
 灯はとてもきれいなので
 眠れない人の話など 幻にちがいないのです。

 もちろん、
 光の海の隙間にだって 歩いている人がいるだなんて
 考えてはいけないのです

 午後10時
 あなたが帰宅する時刻です。



地上の星座


 −−同じ星空の下で
   きっと、同じ街の灯をみつめて−−

 あなたのマンションの 分厚い扉越しの 短い会話
 あなたにあげるはずだった おみやげを抱えて
 ぼくは帰ってきました。

 そうして今は、
 自分でいれたコーヒーの味だとか
 どんなお酒を飲もうかなんて
 ぼくは、気にしているのです。

 −−ミラーに映る あなたの唇の幻影
   交わしたこともない くちづけの
   あなたの唇の 感触の記憶−−

 街の灯の間には
 生きて歩いているあなたが隠れています。


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Nagi -- from Yurihama, Tottori, Japan.
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